和風転成

思い出はそのままに。もっと明るく、暖かく、使いやすい、落ち着いた我が家へ。

Yさんのお母様は嫁入り後、永年にわたり本家として、お盆、正月、冠婚葬祭、等々を分家の立場の兄弟家族達を二間続きの和室でもてなしてきた。時が過ぎ、親戚も各々の家族が成長し、代替わりを迎え、その二間続きの和室の役目も終えた。
次は
、Yさんご家族の為の部屋として、お母様をねぎらうべく、明るく、暖かく、使いやすく、生まれ変わる。

二十歳で嫁がれて先代と二人三脚で建てたこの家には思い出がいっぱい。床柱は所有する山から大きな太い杉の木を兄弟で担いで運び、皮を剥ぎ、磨いた。欄間は職人さんが腕によりをかけた。玄関の敷石は先代が自身で埋けたもの。

和室の良いところをふんだんに生かす。部屋の中に木の柱や木の天井を使うと心が和む。それが和室の良さである。室内に使われる木というのは化粧を施してある。育てる過程で「枝打ち」をして製材した際に節が出ないようにしている。柱や敷居、鴨居、縁甲板の床には節が無いのはそのためだ。手間隙をかけた無節の木だけに高価である。現代に同じ仕上げにしようとすると高値の花である。今ある財産(リアルヴィンテージ)を上手に生かし、その先の和室を目指した。

背筋が伸びる「座」の生活も良いが、日常は「腰掛ける」生活のほうが負担が少ない。一部屋は板の間にしてソファーを置き、大切なゲストをもてなす空間にした。残りの一部屋にはお母様が慣れ親しんだ畳を残し、腰掛けられるように掘りコタツにした。

家主と共に味わい深い歳のとり方をする家が自然だと思う。和服でお茶やお菓子を頂いたり、お花を生けるのに相応しい、そんな上質な空間は五感に心地よい。

二間続きを襖で仕切られ、外部との間には広縁があった為に、部屋が暗く、寒かった。大柄なご主人にとって低い鴨居は潜り抜ける必要があったので、今度は鴨居を高くし、戸襖から障子に変更して透過性を良くし、明るい空間へとした。欄間も高くした。障子欄間があった場所は市松模様のガラスをはめ込んだ。明るさを確保しながら懐かしさもかもし出している。これらの処理で部屋が寒くならないように、床に断熱材を敷き込み、窓は断熱ペアガラスサッシュへと変更した。

畳の部屋は通常、板の間から敷居の高さの分だけ30~40mmは上がる。年配の方にはこの少しの段差が毎日のこととなると厳しい。さりげなく、バリアフリーになるように、床を剥がした際に敷居を下げて既存建具にも修正を施した。見た目には変わらなっかったが、お母様だけはすぐに気づいて喜んでくださった。

暑い日にはエアコンを稼動させたいが、和室にあの白い四角い筺体が馴染まないので、一台は壁の中に埋め込み、小判型の噴出しをつけて対処した。

玄関脇の和室を主寝室にした。年齢を重ねると寝起きの動作が布団よりベットの方が楽になる。なので今回はベットを置くのだが、ベットルーム=洋室ということにはしたくなかった。ヴィンテージリゾートホテルの草分けである箱根宮ノ下「冨士屋ホテル」にみられるような和と洋の調和を図った空間づくりを意識した。床を板の間にし、壁に珪藻土を塗り、天井は板張りのままとした。

寝室~玄関間は小窓を設けて寝室から玄関の様子がそれとなく伺えるようにした。

玄関ホールは機能的向上を図った。日本家屋は玄関床とホールの床までの高さの差がある。途中に式台という板を加えてステップが低くなるようにした。

ベンチを設けてお母様の靴の脱ぎ履きを楽にした。下駄箱から玄関収納に付け替えて大容量にした。古い和風はとかく敬遠されがちでリフォーム時には白い四角い部屋にされてしまうことが多いのだが、歳を重ねてくると、和風もいいものだ。いや、和風がいいのだ、と再認識させて頂いた。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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