太陽のようなNさんとご家族の家づくりのお手伝いをさせて頂きました。

数年前のある日、確かポカポカ陽気だったと思ったが随分と前の出来事だったので忘れてしまった。
Nさんが奥様と事務所を訪ねて来られたのはそんな日だった。
ご自身が育った実家の土地に家族5人+たまにカラオケをしに帰ってくるご両親が楽しく過ごせる家を設計して欲しいというご相談だった。


 

相談の結果、希望内容と予算で現実に建ちそうだとわかったNさん、2回目の打ち合せで、弊社にて、 設計委託業務契約を締結。

その後、建築予定地である、Nさんのご実家へ向かう。
度重なる台風で屋根材もめくりあがり、ご近所に飛んで行きそうな勢いであるという。
飛んでいってしまう前に迅速に建替えを進めなければならない。

 

 

事務所に帰り、Nさんからの要望と私のしたためたアイデアをまとめてプラン(基本設計)を進めた。
二週間後に最初のプランを提案すると、その二週間後には今度はNさんから、
ノート一杯に描かれたNさん直筆の間取り図が紹介された。
最初のプランをたたき台にして仕事の合間に線を重ねていったという。

 

 

こうして幾度と無くプランの修正を重ねて基本設計の着地点である、間取りの決定をするのだ。
いつしかテーブル一杯のプランが完成していたN氏作成のプロ顔負けの図面。仕事の合間に図面化していたのだという。
ある日、Nさんの事務所を訪ねると奥の部屋にはPCとプリンターが机に並べられていた。
どうやらくだんの図面はこの密造工場で製造されていたようだ。電源をそっと抜いておこう。

 

 

打ち合わせを重ねていったある日、Nさんより捕れたての海の幸を頂く。すごく大きなアワビである。
しかし、これは序章にすぎなかった。

 

 


「間取りはもう出尽くした」とNさんが宣言されたので、基本設計が終了した。
次回からはより具体的な設計に入るために実施設計に移ることとなった。
模型を造ってプロポーションの確認もしてみた。「結構、スタイルがいい」とNさんから好評を得て、打ち合わせを後にする。
そして3.11のあの地震が起こる。

数日後、Nさんより「将来の目処が立たないので規模を小さくしたい」とご相談を受けた。
事情が事情なので快諾し、基本設計を再度考えることにする。画像左はお蔵入りとなった幻の模型だ。
そして、もう一度プランを練り直し、Nさんも秘密工場で密造を重ねてそんなに期間をおくことなく出来上がったバージョン2。
建築費も3/5位下げることが出来た。

 

 

実施設計に入ると便器の機種やキッチンのグレードなど具体的な選定をしなければならない。
イメージの確認を取るためにNさんご夫婦とショールームに足を運んだ。

 

 

実物をみると大きさが実感出来るので。現場で間違いが起きない。
浴槽では足が伸ばせるか、現物の色はカタログで見た時と違わないか、掃除がし易いかなどをチェックするのだ。
そしてまたNさんよりアワビを頂く。本日は刺身で頂く。感謝。

 

 

実施設計図を元に工務店さんに見積をしてもらい、増減額の交渉を重ね、今回も希望金額で納まった。
この日は設計者立会いで工務店さんとNさんが施工契約を締結した。社長自らが重要事項説明書を読み上げ確認をする。

 

 

施工契約も締結したので本来なら速やかに既存建物を解体、整地し基礎着工に備えるのだが、
Nさんのお父さんのご要望で家祓いをすることとなった。

 

 

「九州から裸一貫でこの地に来られて今日までこの家と共に喜びや悲しみを過ごしてきたのだからお別れの挨拶をしたい」
と基本設計の頃からお父さんは仰っていた。この日はNさん家族の他に弟さんご夫婦、お父さん、お母さんが集まった。
家に対する愛情をこれまで持たれた家族は果たしてどれだけいるだろうか。悲しいかな、私は最近出会っていない。
私はお父さんの言葉を伺い、自分で反芻していた。
家に慈しみを持てる環境や人生観はきっとシアワセに違いない。お父さんの背中が大きくみえた。

 

 

家祓いの後、解体、整地したこの日は地鎮祭を執り行う。神様に奉納するのは勿論、本日捕れたての海の幸。

 

 

着工した頃から外装、内装材の色や柄を現場の進捗状況をみながら数回に分けて決定をしてゆく。
決めることが多いので、一度に行わないのが重要だ。この日は屋根の色や樋の色、サッシュの色などを決めている。
そしてまたNさんよりアワビを頂く。本日はバター焼きで。感謝。

 

 

概ね2週間ごとに工事の進捗状況に応じて現場で監督が説明をしながらNさんから承認と確認をもらう。

 

 

現場打ち合わせはいつも事務所だけとは限らない。外壁の色をきめるのであれば屋外で。

…遠くで静かに現場をみつめる 大工さん。

 

 

打ち合わせが白熱すれば場所を移し、監督とNさんは親睦を深める。

 

 

時にはご学友となり、共に学び、A画伯が絵日記なども描き、イメージを共有する。
画像右下の絵は「新築の家の敷地内に車を駐車しようと、バックをしたら勢い余って家に突っ込み、
はずみでNさんが車から飛び出してしまう。(何故か前方へ)という斬新なもの。

 

 

そしてまたNさんよりアワビを頂く。本日はバター焼き&刺身で頂く。感謝。

 

 

こうして完成したNさん宅。

 

 

純和風の住宅では無垢の木をふんだんに使用するためにとても高価なもの。
これからの不透明な社会を賢く生き抜くためには住宅ローンの負担も程ほどにしたいところだ。
N邸では必要最小限和風にこだわっていることも特徴でもある。
木目調サイディングを縦張り使いにして伸びやかさをかもし出し、
木目格子調アルミフレームをサイディングにあわせて調和を図った。

 

 

玄関引戸を開ければヒノキの縁甲板の床と杉板の腰壁が目に止まり、毎日旅館に帰ってくるかのような雰囲気を心がけた。

 

 

階段を上がると縦茂障子の引戸が現れ、そっと引くと10畳の座敷が広がります。
その向こうは朝食を食べる為兼居酒屋の雰囲気を味わう為のカウンターがあり、
ハッチの向こうが対面キッチンになっている。
玄関から廊下と通り階段をあがって座敷に着くまでを和風でまとめた。
他の部屋は一般の壁紙でまとめてコストバランスを図った。

 

 

この10畳の座敷では円卓の大テーブルを中心付近に置き、皆で食事を取る。
子供の宿題を奥様がみたり、新聞を読んだりするのも全部、この座敷で過ごす。
「食事は食堂で、くつろぐのは居間、宿題は学習室」でと部屋を分けるのもけじめがついて良いのだが、
限られたスペースを有効に使うことが一方では、親の目の届くところで子供が過ごすことになり、
愛情が育めて家族のぬくもりが感じらるものである。キッチンは既製品を家の形に組み合わせた。
天井が一部斜めになることから収納力が足りなくなる。したがって、下部収納を全て引き出し式にして、
奥のものが億劫になることなく取り出せるようにした。下部収納をフル活用することで収納力をカバーする。
階段の蹴上板を無くすことで光りと風が通り易くなる。

 

 

寝室はなにも寝るためだけにあるのではない。自分だけの心休まる場所は人それぞれ。
それが色であったり、ゆらぎであったりするのだ。

 

 

お父様の笑顔は今日も嬉しい。

 

 

今日からNさんご家族5人の新生活が始まる。あの元気な笑い声が遠くから聞こえてくることだろう。

 

最後までお読み頂き、ありがとうございました。

 

 


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